東方風止極想 ~All winds always will stop blouwing 公式ブログ

任天堂のサービス「うごくメモ帳3D」で執筆中の東方二次創作小説のHPです

楽園の閻魔と永遠の咎人

人間の里。幻想郷に生きる人間の大半が暮らすこの小さな里は、いつも以上に賑やかだった。 いつもとは違う、一点に集中した活気の中心には、一人の少女。

少女の名は「四季映姫・ヤマザナドゥ」。三途の川の先にある彼岸で、死者の魂に裁きを下す「楽園の閻魔」。

彼女は休暇を得ると現世に姿を現し、生きる人妖に死後少しでも下される罰が軽くなるように生活改善を促すよう説教をして回る。

彼女の言うことは大抵が正論。その言うことを基に生活を改善したならば、間違いなく死後はそのままよりはマシなものになる。

そのため、多くの人間からは敬われている。

しかし、話が長い、断りもなく人のプライバシーや過去を覗く、正論が突き刺さるなどの理由で、苦手としている者も多い。

 

――――――嫌なタイミングで里に来てしまった、と、男はため息をついた。 男は神谷龍之助夜永。

ひょんなことから不老不死となってしまい、三千五百余年を生きてきた青年の姿をした老人だ。

とある廃洋館での用事を済ませて迷いの竹林への帰り道。人里が何やら賑やかだったので立ち寄ってみたのが間違いだった。

まさか閻魔の来訪での賑わいだったとは。しかも、最悪なことに閻魔と真正面からかち合ってしまった。

 

「どうかされましたか?溜め息などついて。」

少女の姿とはかけ離れた、格式高い態度で閻魔は神谷に話しかける。 神谷はこの仏が苦手だった。

遠くから一目見た瞬間、気付かれないように持てる力を駆使して全力で邂逅を回避するほどだ。

「寄り道をしている場合ではないな。と思っただけです、閻魔様。」

どう切り抜けようかなんて考える暇もない。彼女は二言目には説教というほどに説教好きで有名だ。1秒でも隙を見せられない。

「それでは。」と、さっさとその場から立ち去ることにした。

「待ちなさい、老爺。」

「失礼ですが、あまり暇ではないのです。人を待たせているので。」

人のことは考えてはいるが人の心は考えていない声を背に受ける。

これはマズいと適当な言葉を並べて神谷はそこから走り去った。

 

「あ、ちょっと!!」

四季映姫は神谷を追う。もう何ふり構っていられなくなった。自らの持つ力を行使して、空気の壁を背に作る。

彼女は、その壁に衝突して尻餅をついた。

「あいたたた……」

ずいぶんと勢いよく衝突してくれたようで、四季映姫は少し眩んでいる。

「悪いですけど、追わないでください。」と言い残して神谷は空に飛び去った。

――――それから半刻。四季映姫は追ってくる気配もない。神谷は迷いの竹林の奥深く、人間や妖怪どころか、神ですら到達の厳しいところにある小屋に逃げ込んだ。

神谷の居候先であり、またこの竹林の道案内をしている少女、藤原妹紅の住居だ。

戸を閉め、部屋の奥で床に倒れこむ。たった3分程度の相手だったはずなのに、ここまで神経を擦り減らすことになるとは。

酷く体も脱力して、もう今日は動きたくなくなった。

――――天井を眺め、眠気の中、一刻。ふと、今日したことの、のちに帰ってくる面倒に気が付いた。

閻魔を振り切るためとはいえ、少々人里の中でやりすぎた。 しばらくあそこには近づかないほうがいいだろう。

人の多い場所であそこまでしては、しばらく立ち寄るのは無理だ。それに、あの閻魔。

おそらくは覚えられただろう。 次に会ってしまったら今度は逃げられない。

これからはもっと、警戒しておかなければ。

 

「はぁ……」

 

こう考えると、とんだ一日だ。運がなかった。ああ、こんな一日はさっさと終わらせてしまったほうがいい。

妹紅はまだ帰ってきていないが、もう寝てしまおう。 神谷は体を横にして少し丸くなり、眠りについた。

 

――――――それから、六刻ほど。誰かに体を揺られ、目が覚めた。

 

「起きた?龍之助。」

「……ああ。」

 

声で体を揺らしたのは、家主の藤原妹紅だと察した。

 

「珍しいな、こんな夜に寝てるなんて。」

「……少し、疲れててな。」

神谷はゆっくりと体を起こして、壁によりかかった。目を開くと、暗闇が広がる。

この小屋には夜は光がほとんど入らない、部屋の真ん中にある囲炉裏だけが光源になる。

 

「明かり入れるか?」

 

妹紅の声に神谷はああ、とだけ返す。やがて、部屋にオレンジ色の明かりが灯った。

それと同時に、神谷は驚きの声を上げた。

 

「なんです、いきなり大声をあげて。」

「は、はぁ!?なんですじゃない!!なんでだ!?」

 

驚愕の根源は、目の前に突然現れた。いや、最初からいたのだろうが気付かなかった、緑色の髪をした少女だった。

見開いた眼を、その少女から囲炉裏に火を入れた妹紅に移すと、彼女は言った。

 

「あぁ、そいつ。お前を探してたっていうから連れてきたんだよ。」

「あ……ぁ……」

 

神谷はすっかり口を開けて、茫然とする。

その、妹紅が連れてきた少女は、昼間に全力で振り切った閻魔。四季映姫・ヤマザナドゥだった。

その四季映姫が言う。

 

「時間はあまり残ってはいませんが、あなたには言わなければならないことがあったので、ここまで彼女に案内していただきました。神谷龍之助夜永。」

「冗談じゃない……」

「今は、誰も人を待たせていませんね?」

吹き出た汗を拭く余裕もない。寝起きの頭で、どうにか逃げる手立てを考えるが、何もなかった。

完全に、どうしようもなかった。

四季映姫は、胸元から手鏡を取り出してから続けた。

 

「あなたが飛び去るとき、この浄玻璃の鏡があなたの過去を映しました。」

「……そう。」

 

観念したように、神谷はうつむいて答える。

 

「あなたの過去を見て、正直身の毛がよだちました。これほどに罪を犯している人間は見たことがありません。」

「……そうだろうな、不老不死だし。」

「その不死から、過去重ねてきた罪。そして、これから先犯す罪。このままではあなたは死後、地獄に落ちるでしょう。」

「……死なないけどな。」

まずは黙って聞きなさい、と、四季映姫は悔悟棒で神谷の頭を叩いた。

「先ほども言った通り、あまり時間がありません。簡潔に済ませます。」

「……。」

「あなたは自らの不死の人生で後悔を重ね、それが苦しいあまりに、未来が怖いあまりに、現状どうすれば自分を守ることができるかしか考えられていない。

 それではいつか、あなたが強く後悔している七代目の巫女の時と同じような。それどころか、それよりも大きな悲劇を引き起こしかねません。」

「……あれよりもか。」

「そうです。長い生、それをひたすらに今、今、今と生きていては、あまりに危険。」

 

一息おいて四季映姫は言った。

 

「そう。あなたは少し未来に失望しすぎている。」

 

黙って神谷は閻魔の顔を仰いだ。真剣な表情で、閻魔は神谷を見る。

対して神谷はひどく曇っていた。 この閻魔のいうことは、まったくその通りだった。

自分は、後悔を重ねすぎた。蓬莱の薬の服用から、故郷を離れたこと、幻想に落ちたこと。

後悔しすぎて、何かするのが怖くなった。 どうやっても、未来が恐ろしいものになる。

だから、いつしか、今をどう生きるかだけを考えるようになった。

そして、閻魔を避けていたのは、これを指摘されるのがいやだったからだった。 自分は、これに縋って生きているからだ。

「少しは未来に希望を持ちなさい。あなたにあるのは今と過去だけではないのです。それをよく考えなさい。」

「……あぁ。」

 

神谷が答えると、四季映姫は「それでは。」と背を向け、小屋の戸に手をかける。

戸を開ける前、少し彼女は後ろを見た。

 

「いつか、ちゃんと私の教えが活かせているか確認しに来ますよ。神谷龍之助夜永。」

「……わかった。」

「それと、八雲紫にそのうちあなたの元に行くということを伝えておいてください。七代目の巫女の件を隠していたことをちゃんと話していただくので。」

それには、神谷は答えなかった。

 

――――――四季映姫は戸を開け、小屋から出て行く。その背を黙って見送った。

 

「――――大丈夫か?龍之助。」

囲炉裏の前で座り込んでいた妹紅が神谷に声をかける。

「……こてんぱんに言われたよ。」

「すごかったね、あいつ。尋常じゃない空気だったけど、誰なんだ?」

「閻魔だ。……幻想郷縁起に載ってる。」

「閻魔だって?へぇ、私たちには無縁な存在だと思ってたけど、こんなところで会うこともあるのか。」

 

神谷は黙って、体を倒した。

 

「寝るのか?」

「……。」

 

未来に希望を持て。などと簡単に言われても、じゃあどうすればいいかなんて、自分にはわからない。

変化できない、進化できない、この不老不死は。どうしたら、後悔せずに済むだろうか。

考えれば考えるほど、頭は白くなる一方だった。